Vol.2 | アート・インクルージョン
アーティスト/成田 真梨菜さん
アート・インクルージョン/佐々木 桂さん
動物をモチーフに絵を描く“妄想エンジン全開娘”
アーティスト/成田 真梨菜さん
アートを通じた交流で、誰もが優しく包み込まれる社会へ。
障害のある人のアートをもとにしたグッズ販売をはじめ、イベントや展示会の開催など、さまざまな活動を通じて社会と交流することで、あらゆる人を優しく包み込む社会の実現を目指している「アート・インクルージョン」。
仙台市の中心部にある事業所で、アクリル絵の具を使って、一心不乱にキャンバスに向かっていたのは、成田真梨菜さん。学生の頃から絵を描き続けている成田さんは、社会と自分をつないでくれる場所として、この事業所に通うようになりました。成田さんの現代美術家としてのアーティスト名は「妄想エンジン全開娘」。その理由について成田さんは「学生時代に近所の自動車工場で「エンジンが暴走している」を「エンジンが妄想している」と聞き間違えて。それを名前にしたんです!」と笑いながら説明してくれました。
妄想エンジン全開のエネルギッシュな作品が人気。
「動物との共存共栄」をテーマに絵画を描く成田さんは、自身の感情に合わせて動物が歌い、踊る様子が見えるといいます。モチーフにする動物はその時に自分が描きたいもので、事業所を訪れた際には「ハロウィンで興味を持った」というコウモリを成田さんらしいカラフルな色彩で描いていました。
成田さんの絵画や絵をプリントした洋服、絵を描き込んだこけしなどは大変人気で、個展でもよく売れているそう。たくさんの人が評価してくれることを「うれしいですね」という成田さん。「今度は干支のうさぎを描きたいです」と、次回作への意欲を見せていました。
アート・インクルージョン/佐々木 桂さん
利用者のアートを活用した、商品開発を手掛ける。
「アート・インクルージョンでは、利用者が描いた絵を作品として残すだけではなく、表現するという行為自体を大切にしています」と話すのは、同事業所で商品開発を行っている佐々木桂さん。「好きな絵を描いたり、アイドルになりきって歌ったり、踊ったり、ここでの過ごし方は自由です。そういった表現に価値を感じる人と障害のある人がつながる場所にしたいと思っています」。その説明の通り、事業所では利用者一人一人が、思い思いの表現活動に励んでいました。
アートが暮らしを変えるきっかけを商品で作りたい。
利用者の表現活動をサポートする中でも、佐々木さんは「人の暮らしに変化や刺激を与えられる商品を作りたいですね」といい、一つのエピソードを紹介してくれました。「あるアイドルのファンで、たくさんラブレターを送っている利用者がいたので、その言葉をプリントした実際の手紙と同じサイズでつくった変形ハンカチを作ったんです。ハンカチを使う人が彼女からのファンレターを受け取るようなイメージで」。それからしばらくして、そのハンカチに関する問い合わせがあったといいます。「『実直に愛情を伝える言葉を見ると、ポジティブな気持ちになれる』といわれて、アートの持つ力に改めて気付かされましたね。そんな作品の良さを伝えるサポートを今後もしていきたいです」。
アートに携われる環境と、利用者の自由な姿に惹かれて。
ジュエリー作家や美術館のミュージアムショップ店員として東京で活動していた佐々木さんが、アート・インクルージョンで働くようになったのは 2017年のことでした。「忙しい日々に息苦しさを感じて、地元の仙台で創作活動をしながらアルバイトをしようと考えていたのですが、賃金が思ったより低くて。正社員として働ける所を探す中で、ハローワークの方に『アート』という名前が付いていたという理由だけで、ここを紹介されました(笑)」。
福祉の分野に携わったことはなかったという佐々木さんですが、同事業所の見学に訪れてすぐに「面白い世界かも」と感じたそうです。「アートやデザインに関わりながら、商品開発できる環境も魅力でしたが、何より利用者がとにかく自由に楽しく過ごしているところに惹かれました」。
実際に働いているのが「想像以上に楽しいですね」と佐々木さん。「毎日、笑いが絶えないし、変化に富んでいて、ここに身を置ける幸せを感じています。それに商品化や売上に関係なく、ただ『つくる』ことを楽しんでいる、みんなの姿を見て、私もこうありたい!と思うんです」。
福祉と畑違いの人にこそ、おすすめの仕事。
佐々木さんは自身も含め、福祉とは畑違いの業界の人こそ、活躍できる仕事だと語りました。「障害のある人にさまざまな経験を積んでもらうという狙いもあり、事業所の人たちは外から見たアイデアや意見を求めていると思います。ここでは自分の持ち物が思わぬ武器になると思いますし、福祉の世界に全く関わっていない人自身にも新しい発見や冒険があるのでおすすめの仕事です!」。これまでの経験を活かしながら、仕事に向き合っている佐々木さん。利用者の方々と昔からの友だちのように、楽しそうに笑い合う姿が印象的でした。
一般社団法人アート・インクルージョン
- 住所/仙台市青葉区一番町3丁目8番 14号スズキアバンティビル3F
- 開所時間/10:00~16:00
- WEB:https://art-in.org/
- アート・インクルージョンの作品、グッズはこちらで購入できます。
Ai マーケット:https://artinclusion.shopselect.net/
イメージ・ムービーを制作した学生より一言
東北学院大学4年/大泉 花澄さん
今回、アート・インクルージョンを訪れるまでは、障害のある人は自分にとって遠い存在のようなイメージでした。しかし、表現活動の中には共感できる部分もあり、一気に心の距離が近づきました。また、福祉で働く方々はひたすら真面目に作業しているのかなと想像していたのですが、楽しそうに笑いながら働いているのを見て、多くの人にとってキャリア形成のいい選択肢になるのではないかと感じました。