インタビューINTERVIEW

Vol.6 | すんぷちょ

ダンサー/佐々木 大喜さん
すんぷちょ代表/及川 多香子さん

ダンスや演劇を通して、表現者としての幅を広げる
ダンサー/佐々木 大喜さん

手作りのスタジオにあふれる笑い声。

「すべての人にアートを」をスローガンに、年齢や障害の有無に関わらず、さまざまな人が芸術を通じて交流することを目的に、舞台公演やダンスワークショップなどを行っている「すんぷちょ」。その活動の場となっているのが宮城野区にある「アートシェアスタジオ ちゃちゃちゃ」です。かつて倉庫だった場所を自分たちの手で改装し、クラウドファンディングなどを活用して整備された空間には、いつも笑い声があふれています。

スタジオを訪ねると、舞台公演を行う人たちが参加するパフォーマンスクラスの稽古の真っ最中。子どもや大人たちが音楽に合わせて「こういう踊りはどう?」と楽しそうにアイデアを出し合い、思い思いにダンスをしていました。その中でも周囲を見渡しながら落ち着いた様子で踊っていたのは、佐々木大喜さん。休憩中にはみんなに明るく声をかけ、すんぷちょのメンバーからは「だいきっち」という愛称で親しまれているムードメーカーです。

出演者も観客も楽しい舞台を!

ダンサーとして活躍する佐々木さんのダンス歴は、20年以上。自身のその時々の気持ちを「だいきワールド」として表現している瞬間が「最高」といい、すんぷちょの活動については「おもしろいメンバーが多くて、一人ひとりが好きなダンスや演劇をできる環境がいいですね」と語りました。

ダンス以外にも演劇公演などにも出演し、舞台での経験が豊富。今後の目標について「やりたいことがいっぱいあるんですよ!」と佐々木さん。その一つが作品を出演者も観客も楽しいものにすること。そのために次回の公演に向け、練習に励んでいました。

すんぷちょ代表/及川 多香子さん

“お茶っこ”のような、あたたかい雰囲気の場に。

「すんぷちょ」というユニークな名前は、宮城の方言で「急須」という意味。団体の代表を務める及川多香子さんは「宮城の“お茶っこ”のように、幅広い世代の人があたたかい雰囲気で交流できる場を文化芸術の力で生み出したいと思っています」と話します。

「特に障害支援や福祉的な活動を中心にしている意識はなくて。色々な感覚を持つ人がダンスをすることで、よりおもしろい作品になると思っているんです」と及川さん。「ただ、さまざまな背景を持つ人たちが一緒に楽しむための配慮は必要です。そのためにハードやソフトを整えていたら、ちょうど社会でもそういった視点が求められるようになってきました。社会の後押しもありながら、現在のような活動になっています。

人と人の関係性が感じられる舞台を目指して。

元々、すんぷちょは“即興パフォーマンス集団”としてアートに力を入れており、多様な感覚を持つ人たちが、一つの作品をつくることを大切にしてきました。そして、その想いは今も引き継がれています。「人の心が動く瞬間って、人と人の関係性が感じられる時だと思うんです」と及川さんはいい、さらに続けました。「障害のある人とそうでない人が一緒に演じたり、踊ったりしている姿から、障害がある人と自分とのつながりや、多様性を受け入れる社会の在り方など、さまざまなことを感じてもらうことが我々の作品の価値だと思っています」。

アートの世界で感じる、楽しさと課題。

大学で演劇学を専攻した及川さんは、アート関連の仕事を志望していたものの、卒業後はまったく畑違いの分野に。その後、東日本大震災でのボランティアを経て、NPOでの活動を行っている際に偶然、すんぷちょのチラシを目にしたそうです。「『すべての人にアートを』というキャッチコピーにピンときました。初めは一緒にダンスを楽しんだりしていましたが、徐々に運営に携わるようになり、2016年に代表に就任しました」。

元々大学で、文化芸術を教育や福祉につなげるアートマネジメントなどについて学んでいた及川さんは、その知識を活かしながらアートに携われることを「好きなことを突き詰めることができる魅力ある仕事」と感じているそう。一方で、仙台では文化芸術の社会づくりにおける価値の認知・普及があまり進んでいない現実も目の当たりにしています。「アートは多様な価値観や個性の相互理解を深めながら、創造力や感性を育むことができるため、豊かな社会づくりにぴったりの手段の一つです。ぜひ、私たちの活動を通じて、たくさんの人と人がつながってほしいですね。楽しみながら障害のある人とそうでない人がお互いに理解を深めれば、もっとやさしい社会になるのではないでしょうか」。

感覚や身体が違うことから生まれる面白さ。

福祉を仕事にすることについて「私は専門的に福祉を勉強してきたわけではありません。でも、色々な感覚を持っている人や、いろいろな身体を持っている人と一緒に活動する面白さに気がついてしまいました。《一緒に》を追求していたら、福祉の領域と重なってきたという感じです」と及川さん。

「学校教育などが進んでくると、障害のある人とない人が一緒に活動する機会が減っていくと思います。インクルーシブ教育もまだまだ伸びしろがある領域です。自分が見ている世界の外に、もっと多様な価値観や面白いことが広がっている、と実感できるのがこの仕事の面白さではないでしょうか。それは福祉の仕事にも同じことが言えると思います。」と話してくれました。

すんぷちょでは障害や年齢の違いを問わず、あらゆる子どもたちが、さまざまな表現にふれることができる「フラットシアターフェスティバル」を2023年9月に開催予定。仙台に文化芸術の力で新たなつながりを生み出そうと、及川さんは精力的に活動を続けています。

NPO法人アートワークショップ すんぷちょ

イメージ・ムービーを制作した学生より一言
東北学院大学3年/伊藤 匠人さん

みなさんが、すごく楽しそうに活動している姿が印象的でした。私は将来、まちづくりの仕事に携わりたいと考えており、すべての人にとってやさしい場所を作りたいと思っています。その時にすんぷちょのようにアートやダンスを通じて楽しみながら、それぞれの理解やつながりを深めていくことはとてもいい手段だと感じました。これからは健常者の一方的な視点ではなく、さまざまな人の立場から、物事を考えていきたいと思います。

インタビュアー

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